クルド人送還関連の動画74件削除 著作権侵害で

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 当サイトが著作権を有する写真の無断使用が相次いだため、7日からYouTubeに対して違法な動画の削除を求めた。2023年に当サイトが取材をした際に撮影したクルド人男性の写真に関して、YouTube上で確認できた著作権侵害の使用は77件。13日までに大半を削除することに成功した。申立てから削除まで、ひと段落したため、ここまでの経緯を報告する。

◾️盗用された4点の写真

無断使用された写真4点(撮影・松田隆)

 違法に使用された写真は、川口市在住であったユージェル・マヒルジャン氏(34)で、同氏が2025年7月8日にトルコに強制送還されたことでYouTubeなどに多数の動画が投稿された。同氏はabemaに出演し、また、産経新聞の取材を受けていたためネット上にはそれなりの写真が存在する。

 しかし、abema出演時の写真を使用しようとすればスクリーンショットになり、また、産経新聞は顔をカットする写真を掲載しているため、動画制作上『使える』ショットがそれほどない。そこで当サイトが撮影し、公開した写真が注目され、次々と違法使用されアップロードされたようである。

 当サイトでは関連するYouTubeの動画を1つ1つチェックし、違法に使用されている例をピックアップ。確認できた全ての動画についてYouTubeに対して削除のリクエストを出した。その数は77件。7日からスタートして、13日午後の段階で74件の削除に成功した。残る3件については2件が未解決で、現在もYouTube側が対応中と思われる。

 使用された写真は4点で、いずれも2023年5月16日に当サイトが、マヒルジャン氏が実質経営する株式会社マヒル(埼玉県川口市)を訪れた際に撮影したものである。記事化は同年5月21日、22日の2日間(参照・川口市在住クルド人に聞く<前編><後編>)で、さらに同氏が強制送還された後に、当時の取材に関する裏話を披露する記事を公開した(2025年7月10日、13日、強制送還クルド人リーダー 取材の思い出<前編><後編>)。今年7月公開の記事では、新たな写真を2点追加し、合計4点が違法使用の対象とされた。

◾️投稿サイドの言い分

 YouTubeの動画の削除申立てはそれほど難しいものではない。各動画から「報告」の項目を選択、著作権の問題があるという項目に進み、違法使用が確認できるタイムスタンプや著作権者である証明を記入・送信すれば、通常2~3日で処理される。削除依頼に対してYouTubeではAI(機械的チェック)と人間モデレーター(手動レビュー)による審査を行う。AIだけでは誤判定の可能性があるため、人間の目を通すとされている。実績が重なれば処理の速度は上がり、今回の件でも、終盤になるとほぼ即日で削除された。

 現在、3件が未解決で残っているが、いつ頃解決するのかは、こちらからでは見通しが立たない。削除の申立てに対して、動画投稿主が何らかの抗弁をしてくる場合があり、そうなると法的な主張の応酬となる。典型例がフェアユースの抗弁で、米国法上の例外として使用が認められる場合にあたる、というものである。例えば報道であったり、教育であったり、そうした場合には使用が認められると言われている。そのような抗弁が出されたら、最終的にはYouTubeの本社である米カリフォルニア州の裁判所で削除をめぐって争うことになりかねない。

 もっとも、YouTubeの本社が米国で、サーバーが米国にあったとしても、日本国内でも著作権侵害は成立し、民事訴訟法5条9号により東京地裁で仮処分や損害賠償請求が可能である。仮に、動画投稿主が米カリフォルニア州の裁判所の勝訴判決をもって訴えを棄却するように求めてきても、外国裁判所の確定判決が日本における公の秩序又は善良の風俗に反することを理由にその効力を否定できる(同118条3号)。明確な著作権侵害が認められる事案で、著作権者が負ける要素はほとんど考えられない(参照・沢尻エリカ容疑者を麻薬取締法違反で逮捕 ほんの少しだけ関わった過去)。

 YouTubeは動画投稿主の著作権侵害には厳しい態度で臨んでいる。90日間で3度の著作権侵害があればチャンネルは閉鎖されるという。YouTubeの広告収入で経営を成り立たせている会社も存在し、そのような会社にとって動画削除は死活問題となる。実際、当サイトにも投稿主から削除の申立ての撤回を求める依頼が複数届いている。

◾️ちょっとだけよ…は許されない

 当サイトの申立てについて、「写真ぐらいいいじゃないか」「実害はないだろう」という声があるかもしれない。手間をかけて1件1件削除していくより、新しい記事を公開した方がいいではないかという考えがあっても不思議はない。

 そのような考えも理解できないわけではないが、自らの権利を守る大事さ、報道の自由を考えた場合にはこのような無駄な労力を使わなければならない時もある。今回、問題になったクルド人男性を取材するにあたっては、当サイトでもそれなりのコストをかけている。費用面は大したことはないが、取材リスクはかなり大きかった。

 取材に訪れた際にマヒルジャン氏は、今回の取材の前から筆者を含む取材陣の動きを仲間が監視していたことを明かし、また、会った時には「自分たちと対立している日本人の電話番号が、あなた(筆者)のスマートフォンに登録されていないかを知りたい。それを確認させてくれれば、あなたがその人たちと関係がないことを信じる」と申し出てくるほど緊迫した状況であった。

投稿された動画が削除されたことを示すYouTube画面

 同氏が対立する川口市の市議と会って話してもいいという趣旨を語ったために、そのことを当該市議に伝えたところ、後になって同市議は「支持者から『危険なので行ってはダメだ』と言われた」として、面会は実現しなかった。このように危険な状況に、自費で単身乗り込んで話を聞いて撮影した写真である。

 それをYouTuberが何のリスクも負わずに写真を盗用して広告料を稼ぐのであれば、この先、まともに取材をしようという者などほとんどいなくなるであろう。そうなると日本の報道の現場は、今ではかなり信頼を失っているオールドメディア頼みとなり、最終的に被害を受けるのはまともな報道に接することができなくなる一般の国民である。

 当サイトの今回の行為は著作権を有する者として当然の権利の行使であるが、その背後にはそうした公益があることを理解していただければ幸いである。

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