強制送還クルド人リーダー 取材の思い出(後編)

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 川口市で難民認定申請を行っていたクルド人のユージェル・マヒルジャン氏(34)が、2025年に強制送還された問題の後編をお届けする。2023年5月に実施したインタビューでは、冒頭からマヒルジャン氏が取材側に強い不信感を抱いている様子がうかがえ、厳しい言葉のやり取りが続いた。だが、誤解は徐々に解け、インタビューは無事に始まった。

■クルド人排斥と地上げの関係

ユージェル・マヒルジャン氏(2023年5月撮影・松田隆)

 マヒルジャン氏が最初に語ったのは、筆者のスマートフォンに特定の人物の連絡先が登録されているか確認させてもらった理由であった。同氏は、自分たちを川口市から排除しようとするグループが存在すると考えており、筆者をその仲間だと思い込んでいたという。登録の有無を確かめることで、その疑念を晴らそうとしたことを説明した。

 インタビュー前日の電話でも話していたが、彼は特定の日本人グループと対立していた。そのきっかけは地上げをめぐる問題であったという。

 同氏が実質的に経営する株式会社マヒルは、高速道路の出入り口に近い場所に拠点を構えている。周辺3万坪(約10万平方メートル)の土地が、ある配送会社の拠点候補となっており、それを狙う地上げ屋が動いていたという。当時、マヒル社の土地はイラン国籍の人物が差し押さえ物件として取得しており、マヒルジャン氏はその土地を借りていた。

 配送会社の出入り口に位置するマヒル社の土地は開発に不可欠であり、地上げ屋はマヒルジャン氏を退去させる必要があった。マヒルジャン氏によれば、その日本人グループは地上げ屋とのつながりがあり、クルド人排斥を表向きの理由に掲げ、裏でメディアに働きかけるなどしてマヒルジャン氏を追い出そうとしたという。実際に同氏の家族の写真を無断で撮影され、個人情報が当局に提出された疑いもあるという趣旨の話をした。

 具体的な団体名や個人名も挙げ、深い不信感をあらわにしていた。どこまで事実かは確認できないものの、完全な虚構を作り上げたとは考えにくく、似たような構図があった可能性は否定できない。ただ、それによって在留許可の判断が左右されるものではないことも確かである。

■入管でのやり取り

 インタビュー前日に電話した際、同氏の口調はかなり強めのものであった。ちょうどその日、入管に呼び出され、仮放免についての事情聴取を受けていたという。入管職員から国会前でのデモ参加について問われた際、「法務大臣に呼ばれたから行った」と皮肉を通り越したレベルの返答をしたことを語った。また、職員から「国に帰ったらどうですか」と言われたことに強い怒りを示して、相手を怒らせるような言葉で反論したという。

取材に応じるマヒルジャン氏(2023年5月撮影・松田隆)

 筆者としては、そうした挑発的な応答が自身の立場を不利にする可能性があると感じた。しかし、それが自身の判断である以上、取材者としてあれこれ意見する問題ではなく、それ以上聞くこともなかった。

 マヒルジャン氏がインタビューに際して最も訴えたかったのは、自分は日本という国を愛し、地域に貢献してきたという点であるように見えた。実際、災害時には多額の義援金を寄せたり、会社ぐるみでゴミ拾いや草刈りを行ったりしてきた。公園での騒音やたむろ行為をやめるよう仲間に注意するなど、地域との共生に努めていたという。

 また、2020年にクルド人が警察官に押さえ込まれたことで、200人ほどのクルド人が警視庁渋谷署を取り囲んだ問題では(参照・渋谷署に聞いたクルド人問題…偏向報道やめろ)、自分達とは考えが異なり、集団で警察署を取り囲む行為などは認められない趣旨の話をしていた。

 こうした言動が本心からなのか、あるいは在留のための方便であったのかは断言できない。しかし、少なくとも反日感情の持ち主であれば、ここまでの行動、発言は難しいように思う。

 このように一見、矛盾するかのような言動をしていたのは、クルド人社会のリーダーとして、単に日本社会に迎合するだけでは仲間からの信頼を保てない事情もあったのではないかと感じられた。迷惑行為をたしなめると「お前は警察官か」と反発され、時に喧嘩になることもあったという。日本人との調和を図る一方で、内部的には強硬な姿勢を示す必要があるという葛藤があったのかもしれない。

■強制退去の予感

 インタビューを行った2023年5月16日、同氏は5回目の難民認定申請を提出した後であった。ちょうどその頃、出入国管理及び難民認定法の改正案が衆議院を通過し、参議院での審議が始まっていた。

 この改正により、従来の仮放免制度に加え、監理措置制度が新たに導入されることになった(同法44条の2以下、及び52条の2以下)。また、難民申請が3回目以降の者には、申請中であっても退去を命ずることが可能となる(同法61条の2の9第4項1号)。

 本人もこうした制度変更により、自身の退去が避けられないことをある程度覚悟していたようであった。2年前の時点で、今回の強制送還の可能性を想定していた節もある(川口市在住クルド人に聞く(後編))。

クルド人が多いとされるJR蕨駅付近(2023年5月撮影・松田隆)

 退去する際には入管関係者に対し「旅券を取り直し、近隣国を経由して日本に戻ってくる」と話したと報じられている。この点は記事では触れなかったものの、インタビュー時に強制退去となった場合を想定した質問に対して同種の内容を語った上で具体的な経由国まで挙げたことから、再入国の意向が強いことがうかがえた。実行に移すかどうかは不明であるが、可能性は否定できない。

 直接取材する機会を得た者として、今、思うのは、第一印象として決して悪意に満ちた人物ではなかったということである。それでも攻撃的な言動によって日本人社会からの反発を受けたのは、在留資格を持たない外国人リーダーという立場で、日本社会とクルド人社会の間に挟まれ、居場所を失っていった末のことかもしれない。

 仮放免のもとで滞在を続けてきたものの、制度の転換によって国外退去とされたのは、ある意味、時代の要請であったのかもしれない。

(おわり)

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    "強制送還クルド人リーダー 取材の思い出(後編)"に8件のコメントがあります

    1. BADチューニング より:

      >矛盾するかのような言動

      結局、国際的な現在(過去はもちろんおそらく未来でも)の情勢の元では

      •クルド民族の存在そのものが矛盾

      なんでしょうね、クルド民族同士でも武力衝突を伴う争いもある様ですし。

      なお、
      当該のマヒルジャン氏が”反応”した2023年5月9日の投稿は、当方の書き込みに対して、でした。他の方の的確な反応があったので、当方自身は反応しませんでしたが。

    2. 親中市民 より:

      強制送還時のテロリスト的な発言を載せない時点でお察し。
      あれが本性でしょう。
      マヒルに騙され、篭絡された哀れな記者でしかないのではないか?
      記者の仕事は対象の懐に入ることであるが、逆に取り込まれる危険性のあるのだから
      今後は注意した方がいいのではないですか?

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        あなたは、実際に会ったこともない人の1つの発言で、その人の評価を確定させているようにお見受けします。
        また、短絡的な思考から導いた結論を、あたかも絶対的な真実であるかのように信じ込み、根拠を示すことなくネット上で主張し続けておられるように感じられます。
        ご自身の考えや感情に反する意見や事実に対しても耳を傾け、さまざまな情報を踏まえて客観的に状況を判断する努力をなさることをお勧めします。
        そうした姿勢を欠いたまま言論の場に出てくることは、結果としてご自身の信用を損ねることにもつながりかねません。それゆえに匿名で発信しておられるのかもしれませんが、その点も含めて、ご自身の発信のあり方を省みていただければと思います。

    3. 匿名 より:

      何はともあれ滞在してる時点で違法じゃん。難民申請した時点で帰りの旅費を供託金として預かっておくべき、預けなかったら申請出来ない様にすれば良い。本人に金が無いなら難民だと信じてる支援者が仮払いしとけば良い。

    4. 匿名 より:

      難民申請中だか知らんけど、そんな中で違法も好き勝手もし放題な大多数をリーダーも抑えられない民族を、日本人被害者増やしながら日本が受け入れる必要性は無いわな
      申請中ぐらい猫被る事も出来ない攻撃的な輩と日本人の国民性が共存出来るはずもなく、最初から軋轢が見えてるのに受け入れる方がアタオカだろ
      もっと価値観の近い他の国に行った方が、本人たちにとっても幸せだろ

    5. 匿名 より:

      在日外国人と今、トレンドになっている多文化共生と合わせてコメントさせていただきます。日本人の中でも意見が分かれていますが、共生推進側の意見が性善説と感情に基づいて語られる事に違和感を持っています。現在の日本の社会は特に戦後の先人の努力によって性善説が多く採用された。日本人にとって住みやすい社会になっているのです。一方で海外の国々の社会はどうでしょうか?今の日本社会以上に性善説の社会でしょうか?初めて会う人同士が日本以上に信頼出来る社会でしょうか?性悪説の社会は無いのでしょうか?先ずは性悪説を前提にした多文化共生をするべきでは?

      1. 匿名 より:

        結論から言うと、多文化共生は無理だと思います。
        善悪の基準が違うから異文化なのであって、土葬も、肌の露出の多い女性を殺すのも文化によっては正義なのです。
        長年の殺し合いの果てに周辺地域を一つの文化に染め上げて、治安を発生させたのが国です。
        その文化の純度が高ければ高いほど治安はよくなると思います。真の多文化強制とは文化の違う人々とは違う場所で生活して、干渉しあわないことだと思います。

    6. 匿名 より:

      当時の記事をしっかり残している点に記者様の誠実さが表れていると思います。その時の空気感が記事には現れると思うので、後から当時を振り返っても当時の感覚はわからないと思います。とても貴重な資料だと思いますので今後も当時の記事を保全していただけるよう希望します。

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